みんなの健康トークライブ

かんぽ生命健康づくりシンポジウム2013
~常に向上心、未来へタックル~ 開催報告

1.基調講演

講師:栄和人氏(至学館大学レスリング部監督)

どうすれば強い選手が育つのか。ロンドンオリンピックで金メダル3個を獲得した最強チームのエピソードを交え、目標に向かって突き進むことの大切さや、プレッシャーに打ち勝つ心の健康づくりについて語っていただきました。

基調講演の模様(東京会場)

基調講演の模様(東京会場)

基調講演の模様(秋田会場)

基調講演の模様(秋田会場)

選手との「信頼関係」を大切に

みなさん、こんにちは。2004年のアテネオリンピックでは、金メダルを獲った吉田沙保里選手に肩車をしてもらい、2008年の北京オリンピックでは私が彼女を肩車いたしまして、昨年のロンドンオリンピックでは、見事に投げ飛ばされました(笑)。3大会連続金メダルを獲った吉田選手をはじめ、ロンドンオリンピックでは小原日登美選手、伊調馨選手の計3名が金メダル獲得と、監督としてこんなに幸せな人生を歩んでいいのだろうか、という気持ちでいます。

よく、どうすれば強い選手をつくれますかと質問を受けますが、正直なところ、私の中で決まった指導方法はないんです。大切なのは、その時の選手の状況をよく見ること。例えば、疲れて集中力がなくなっている選手には、それ以上の厳しい指導はできませんよね。「今、目の前で起きていること」を自分がどうやって判断していけるか。これが、指導者にとって一番大切なことだと思います。つまり、選手との信頼関係がすごく重要になってくる。私は、選手を自分の娘のように、あるいは妹のように思って接しながら、「この子たちが本当に困った時には、絶対に僕が責任を取る」という一心で指導に当たっています。どうしたらこの子たちを強くできるか。もし強くできなかったとしても、厳しい練習を乗り越えた経験が、社会に出ていろんな悩みにぶつかった時、「あの時の苦労からすれば今の苦労なんて」という助けになれば。「栄監督のところでやっていてよかった」と感じてもらえれば、それでいいのかなと思っています。

30年前の、悔しかった経験をバネに

私は、指導者になったら、自分のような選手をつくりたくないと強く思っていました。というのは、日本体育大学を卒業して2年後、1984年のロサンゼルスオリンピックの最終選考試合で、6歳年下の大学生に負けた時の悔しさが、あまりにも強烈だったからです。当時、オリンピック出場という目標に向かって突き進んでいたものの、試合の日が近づけば近づくほど、緊張、重圧、プレッシャーに押しつぶされそうでした。当日は、「負けてもいいから早く終わって欲しい」「この試合が終われば楽になる」と逃げ道を探してばかり。その日の晩は、とにかく涙が止まらなかったですね。もう一回試合をさせてくれと。今度試合をしたら絶対に勝つ、負けるはずがない。なんで俺は負けたんだって。その後、外出するのも嫌になって、下宿先のアパートにひきこもってしまったんです。

それから3ヶ月近く経ち、公衆電話から奄美大島の実家に電話をしたことが、僕の人生を変えてくれました。今まですべての試合に応援に来てくれていた父が、音信不通の息子を心配するあまり15キロも痩せて放心状態だと、母から聞かされて。思わず、「次のオリンピックに出られるか分からないけれど、俺、もう一回頑張るよ」と口にしていました。その足でアパートに戻って、トレーニングウエアに着替えて走りにいったのですが、なんというか気持ちが晴れ晴れしていましたね。負けた自分を思い返しながら、これから先のことを考えながら走って汗を流して、「生きてる!」と感じたことは、今でも忘れられません。

目標は立てるものではなく挑むもの

女子レスリングがオリンピックの正式種目になったのは、2004年のアテネからです。以前からずっと望んでいたにも関わらず、いざ決定すると、心から笑えなかった自分がいました。正式種目になったからには、オリンピック選手を一人でも多くつくりたい。そして、金メダルを獲らせたい。そう思った瞬間に、奥歯をぐーっと噛み締めて、恐怖のようなものを感じましたね。実は、オリンピック種目は通常の試合よりも階級の数が少ないため、吉田選手と小原選手が戦うことになったんですね。ということは、同門なのにどちらかが勝って、どちらかが負けることになります。結局、小原選手が負けたのですが、30年前の僕以上のことが起きました。それまで高い意識を持ってオリンピックという目標に向かっていただけに、本人は相当なショックを受けてしまって。しばらく実家で休息しなさいと青森行きの新幹線に乗せ、走り去る車体に向かって「ごめんなさいごめんなさい、自分のような選手を出さないと誓ったのに、本当にごめんなさい」と、泣きながら何度も何度も謝りました。その後、小原選手は同じくレスリングをやっている妹のセコンドについたことをきっかけに、「監督、ちょっと再開してみようかな」って言いはじめたんです。そして、ロンドンオリンピックを目指していた妹が引退したため、小原選手が階級を変えて出場することになり、30歳にして見事、金メダルですよ。

小原選手はレスリングを通して壁にぶつかりましたが、こういう悩みや試練は、小学生でも中学生でも高校生でも社会人でも、誰しもに訪れるものです。それに対して、自分の中でどう向き合って、どうクリアして進んでいくかが、人生のおもしろさではないでしょうか。何かを成し遂げようとするから試練がくるのであって、まずはそれに挑戦するかしないか、というのもひとつの試練。そして、成し遂げた後、今後の人生にどうつなげていくかもまた試練。「目標」は、立てるだけではつまらないじゃないですか。そこに自ら進んでいけるようになったら、心から楽しく、健やかに生きていけるのではないかと思います。

2.みんなの体操

実演:橋美加氏

2002年から2012年まで、NHKテレビ・ラジオ体操に出演されていた大橋美加氏をお招きし、栄監督も特別に参加しながら、会場のみなさんと一緒に「みんなの体操」を行いました。

体操の模様(秋田会場)

体操の模様(秋田会場)

(参考)
「みんなの体操」は、座ったままでもできる簡単な体操です。
「ユニバーサルデザイン」という考え方のもと、年齢・性別・障がいの有無を問わず、すべての方々が楽しく安心してできる体操として、平成11年に考案されたもので、かんぽ生命では、NHK、NPO法人全国ラジオ体操連盟と共同で、ラジオ体操と合わせて、その普及促進に取り組んでいます。
お馴染みの「ラジオ体操」は、昭和3年、昭和天皇即位の記念に当時の逓信省簡易保険局が制定したもので、いつでも、どこでも、だれでも、道具なしでできる体操です。
かんぽ生命のホームページでは、ラジオ体操第一、第二及びみんなの体操を動画で紹介しています。 ご一緒にラジオ体操・みんなの体操をしてみませんか?

ラジオ体操動画映像:ラジオ体操第一、第二、みんなの体操を動画で紹介します。

3.トークセッション

栄和人氏(至学館大学レスリング部監督)
吉田沙保里氏(ロンドンオリンピック女子レスリング金メダリスト)
司会:東京会場 浅利そのみ氏(TOKYO-FMパーソナリティ)
   秋田会場 松井梨絵子氏(ABS秋田放送アナウンサー)

トークセッションの模様(東京会場)

トークセッションの模様(東京会場)

トークセッションの模様(秋田会場)

トークセッションの模様(秋田会場)

「金メダルが欲しい! という強い気持ちが、三連覇につながった」

司会
栄和人監督に加えまして、スペシャルゲストの吉田沙保里選手をご紹介します。吉田選手は三重県のご出身で、自宅でレスリング道場を開いていたお父様の指導のもと、3歳からレスリングを始められました。大学時代から栄監督の指導のもと、オリンピック3連覇、世界選手権10連覇を達成し、この記録がなんと、ギネスブックに認定されました。また、2012年11月には、国民栄誉賞も受賞されています。

吉田氏
オリンピックと世界選手権の応援、どうもありがとうございました。13連覇を達成し、「霊長類最強の女」になってしまいました(笑)。次は、14連覇に向けて、誰もがつくれない記録をつくっていきたいと思っていますので、変わらず応援のほどよろしくお願いします。

司会
先ほど、栄監督がご自身の苦しかった体験談をされていましたが、三連覇がかかったロンドンオリンピックの心境はいかがでしたか?

吉田氏
実は、27年間のレスリング人生で初めて、大会前に眠れなくなってしまったんです。原因は、オリンピックの直前にあった国別対抗戦で、10歳年下のロシアのジョロボア選手に負けてしまって。こちらの得意のタックルを研究されていたので技術面を変えないといけないという焦りや、開会式で旗手をした人は金メダルを獲れないというジンクスに翻弄されたり、いろいろなプレッシャーと不安のなかで迎えたオリンピックでした。監督もすごく心配してくれて、3キロ痩せたりして...。

栄氏
本当に痩せました。吐き気もするんですよ。

吉田氏
でも、試合の前日に、48キロ級で小原日登美選手が、63キロ級で伊調馨選手が金メダルを獲ってくれて。とくに小原選手は、かつて同じ階級で戦ったこともあって、そういった仲間が金メダルを獲ったことがすごくうれしくて、優勝した瞬間、号泣しました。そして、夜になって選手村で2人の金メダルを見た瞬間、「私もこれが欲しい!」「絶対金メダルを獲る!」という気持ちに変われたんです。

栄氏
吉田は偉いですよ。寝られずに苦しい気持ちのなか、選手村に見学にきた小学生たちと笑顔で写真を撮ったり、握手したり、サインに応じたり、それを見た僕がまた苦しくなって。あぁ、この子は本当に心が強くて、責任感のある子なんだなと思いました。

司会
そこまで厳しい精神状態のなか、吉田選手はどうやってご自身の気持ちを落ち着かせたのでしょうか?

吉田氏
もう、やるしかない、絶対勝つと心に決めました。

司会
監督は、どうやってリラックスさせたのですか?

栄氏
その時の吉田は、人に何を言われても変わらない状況でしたし、大丈夫かって何回聞いても「うん」と返ってくるだけで。ただ、吉田だったら本番でどうにかしてくれるだろうという気持ちはありました。なによりも、仲間の金メダルを見た瞬間に、本人が真の何かをつかめたことが、僕はうれしかったですね。

「バランスのいい食事に切り替えて、勝てる身体に」

司会
試合に勝ち続けるためには、日頃の体調管理がとても重要だと思うのですが、吉田選手が普段の生活で心がけていることはありますか?

吉田氏
私はとくに減量もなくて、食べたいものを好きなだけ食べるんですが、昔はお菓子が大好きで、主食がお菓子といってもいいくらいで(笑)。大学に入って栄監督にお世話になるようになって、お菓子禁止令を出されてから、身体がみるみるうちに変わりましたね。練習後にしっかりごはんを食べるようになったら、いい筋肉がついて、今まで雲の上の存在だったライバルの選手に追いついてきたんですよ。そこから気持ちまで変わってきて、監督のおかげです。

栄氏
彼女は自由気ままに生きているように見えますが、切り替えは早いですね。こちらのアドバイスに納得すれば、その通りにやるんです。

吉田氏
身体が変わったことを実感すると、さらに続けられますね。それに、バランスのいい食事は、一般の方の普段の健康づくりにもすごく大事なことです。朝・昼・晩、なるべく毎日同じくらいの時間に食べて、あとは適度な運動も必要です。まずはウォーキングからはじめて、慣れてきたらゆっくり走ってもいいですし、ラジオ体操で身体を動かすのもおすすめです。

栄氏
ラジオ体操といえば、子どもの頃、実家の隣の広場が夏休みのラジオ体操会の会場で、毎朝ラジオのスイッチを入れるのは僕の役目でした。大学時代は、小学生にラジオ体操を教えていたこともあるんですよ。

司会
先ほど、栄監督には「みんなの体操」に参加していただきましたが、どうでしたか?

栄氏
椅子に座ったままでもできるところがいいですね。

吉田氏
私にとっても、ラジオ体操は子どもの頃から慣れ親しんだ体操です。適度な運動は毎日続けることが大切ですが、難しい場合は週4日くらいでもかまいません。飽きちゃって続かないこともあるかもしれませんが、そこはやはり、自分に負けてはいけない部分かなと思います。

「自分の意志で考えて行動すれば、プレッシャーにも強くなる」

司会
健康であってはじめて試合に出られますし、監督のようなすばらしい指導もできるのだと思いますが、普段の練習からお二人が気をつけてらっしゃることはありますか?

吉田氏
練習で出来ないことは、試合でも絶対出来ないですから、常に全力でやっています。栄監督は、昔の失敗談や経験をいつも話してくれるのですが、隠し事なしに話してくれるところが、すごく勉強になっています。

栄氏
親御さんから預かって育てているわけですから、娘を育てるような気持ちで、全力で接しないと失礼ですからね。

吉田氏
最近の若い子たちは、「指示待ち族」が多い気がします。監督の指示を待ってから動いたり、自分の意志で考えることが少なくなっているので、そこは私たちが後輩にちゃんと指導しなければと思います。監督に言われたことは、耳で聞いたらすぐに出来るようにしないと。聞いて、人がやっていることを見てからでは、遅いじゃないですか。

栄氏
若い学生よりも吉田が先に行動するんですよ、準備体操からマット運動まで、いろんなことを。そんなふうに率先して動くと、自分にプレッシャーがかかるじゃないですか。それも含めて、何から何まで、すべてが訓練なんですけどね。

吉田氏
監督の全力が伝わってくると、こちらも応えたいですし。今しかできないことを全力で、と常に思っています。

「最後に」

司会
今回のテーマ「常に向上心、未来へタックル」について、アドバイスをお願いします。

吉田氏
目標や夢に向かって、楽しい人生を送っていただきたいです。ない方は今からでも遅くないので立てていただいて。辛い時や苦しい時も、いいことがあると思いながら、頑張っていただきたいと思います。

栄氏
吉田選手の人生をひも解いて4つに分けた場合、まずは両親あってのあなただよって、僕はいつも言っています。2つ目は、あなた本人が頑張ったから、今このような人生を歩んでいるんだよと。3つ目は、吉田選手が生まれてこのかた出会ったまわりの人のおかげで、あなたがあるんだよと。そして4つ目は、吉田選手がまだ一度も見たことがない国民のみなさん方の応援があるからあなたがあると。ですから、感謝の気持ちを忘れるなといつも言っています。月並みな言葉に聞こえるかもしれませんが、感謝という気持ちで自分が何かをやっていると、力が二倍になります。そうやって吉田は生きていくと思いますので、これからも、応援をよろしくお願いします。

司会
ありがとうございました。感謝の気持ちを忘れずに、さらなる向上心を持って、心身共に健やかに過ごしていきたいと思います。みなさまの健康づくりのために、よりよい人生の実現のために、本日の内容がお役立てできればと思っております。

4.抽せん会 ~ 閉会

抽せん会の模様(東京会場)

抽せん会の模様(東京会場)

かんぽ生命では、ラジオ体操の普及推進や「健康づくり」をテーマにしたシンポジウムの開催などを通じて、皆さまの健康づくりに積極的に貢献してまいりたいと考えております。
今後ともかんぽ生命をよろしくお願いします。