ホーム  >  法人のお客さま  >  経営者さま向け情報誌(かんぽスコープ)  >  Vol.183 雇用関連法の規制強化にポジティブに向き合おう。

経営者のみなさまに、次の視野(スコープ)に役立つ情報を毎月お届けしています。

Vol.183雇用関連法の規制強化にポジティブに向き合おう。

 人手不足が深刻化する中、今いる従業員に辞められたら困るというのが中小企業経営者の本音でしょう。人材をつなぎ止めるために、職場環境の改善は急務。その視点で見ると、雇用関連法の改正に前向きに対応することが有効な解決策になるかもしれません。「残念ながら、そのように意識している経営者は多くない」と語る特定社会保険労務士・山口寛志先生に、2025年以降に施行される法改正をどう捉えれば良いか、どう対応すれば良いかを聞きました。

特定社会保険労務士の
山口寛志先生

育児に関する法改正の知っておきたいポイント。

 今年(25年)、改正育児・介護休業法が4月1日と10月1日の2段階に分けて施行される。まずは育児に関する改正について、山口氏の説明を聞こう。
「制度がとても複雑で、専門家でも戸惑うくらいです。なので、経営者の方が最低限知っておくべきポイントに絞りましょう※1。❶働き方に関する規制が小学校入学前にまで延長されたこと、❷子の看護休暇が拡充されたこと、そして❸両立のための個別対応の義務が加わったこと、この3点です」(図「A」参照)
 ❶は、さらに2つの制度からなる。1つは所定外労働の免除。従来、3歳未満の子をもつ従業員から請求があった場合、所定労働時間を超えて働かせることができなかったが、4月1日から対象範囲が小学校入学前にまで広がった。
 もう1つが勤務制度の弾力化。3歳未満の子をもつ従業員は短時間勤務制度を選択できるが、さらに10月1日以降、3歳〜小学校入学前の子をもつ従業員に対し、柔軟な働き方実現措置を講じる義務が課される。
「5つの措置(図「B」参照)の中から2つ以上の措置を会社が講じ、従業員はそこから1つを選んで利用するというものです。事務系の職場では➀と➁、製造など現場系の職場では➃と➄を講じる企業が多いでしょう。子が3歳になるまでの適切な時期に個別に周知して、利用の意向を確認する必要があります」
 次に❷、子の看護休暇については4月1日から小学校3年生修了まで延長。休暇を取得できる事由も拡大し、感染症に伴う学級閉鎖などの際や、入園式・卒園式・入学式に参加するときも休めるようになり、制度の名称も子の看護休暇 に変わった。
「年次有給休暇と異なり無給にできますが、そこをあえて有給とすれば従業員から感謝されます。このように、法定の義務を上回る独自の措置を導入して、人材の定着に役立てている会社もありますよ」

  • 他に、育児休業取得状況の公表義務の対象となる企業規模の拡大(従業員1,000人超→300人超)などの改正も行われている。

仕事と育児の両立へ向け個別対応が必要に。

 そして❸は、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮とよばれる。
 現在、従業員から妊娠・出産の申し出があった場合、企業は育児休業制度などの周知、および取得の意向確認を行っている。これに加えて10月1日以降、勤務時間帯や配置、業務量、各種支援制度(図「A」参照)の利用などの意向を個別に聴取し、仕事と育児が両立できるように配慮することが義務づけられる。聴取のタイミングは、妊娠・出産の申し出時、および子が3歳になるまでの適切な時期とされている。
「各種支援制度の利用は、従業員からの申請が前提です。そのため、従業員まかせにしていると利用が進まないとの問題意識が政府にあるのか、企業から能動的に働きかけるように促しています。これも前向きに捉えて、法令では書面や電子メールでも可としていますが、むしろ積極的に個別面談し、自社にとって大切な人材であることを伝える場に活用してはいかがでしょうか」

介護に関する義務の強化について。

 介護については、4月1日に改正法が施行された。
 育児と同様、介護離職防止のための雇用環境整備を行った上で、介護が必要になったと申し出た従業員へ各種支援制度(図「C」参照)を周知し、利用の意向確認を行うことが義務化された。加えて、40歳に達した全ての従業員に対し、各種支援制度の情報提供を行うことが求められている。
「介護をしながら働く人は、この10年間で約74万人増加※2しましたが、これが企業にとって大きな課題になっています。特に、家族の介護に直面するのはベテラン層や経営幹部層が多く、万一離職となったら大きな損失です。介護についても法定の義務を上回る措置、例えば選択的措置が利用できる回数を増やしたり、介護休暇を有給としたりなど、独自の制度を工夫したいですね」

  • 総務省「令和4年就業構造基本調査 結果の要約」より。

ストレスチェックが全企業に義務化へ。

 最後に、ストレスチェック制度が企業規模に関わりなく義務化される情報について触れておこう。
 現在は、常時50人以上の従業員(パート・アルバイト含む)を使用する事業場に対して、年1回ストレスチェックを実施し、労働基準監督署へ報告する義務が課されている。これを従業員50人未満の事業場にも義務づける労働安全衛生法の改正が国会で審議※3されており、法案が可決されると3年以内に施行される。
 ストレスチェックとは、従業員に質問票を記入してもらい、それぞれの心理的な負担度合いを測るもの。結果は本人に直接通知され、医師による面接指導が受けられる。また、会社には集団としての傾向が報告されるので、職場環境の改善に役立てることができる。(図「D」参照)
「近年はうつ病を発症する人が多いのですが、実は、その兆候に本人が気づいていなかったケースが多々あるようです。それで、ある日突然ポキッと折れてしまい、急に休んだり、辞めたりします。経営者としては『何で早く言ってくれないの』という気持ちでしょう。そうした事態を未然に防ぐための取り組みです」
 ストレスチェックは、現在、従業員50人未満の事業場は努力義務だが、そのうち約35%がすでに自主的に実施している※4
「この数字は経営者の危機意識を表しているのでしょう。50人未満の事業場もいずれ義務化されるので、いち早く取り組んで、従業員の心の健康維持を図ってほしいと思います」
 なお、ストレスチェックの実施や面接指導は外部委託できる。加入している健康保険組合や地域の保健センターに問い合わせてみるのもひとつの手段だ。

  • 2025年4月11日時点で参議院審議中。
  • 厚生労働省「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」より。

山口氏は、東京商工会議所の『同一労働同一賃金まるわかりBOOK』の執筆・監修を行っている。

山口寛志 社会保険労務士法人 山口事務所 代表
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-1-6-2F
TEL:03-6427-1191

  • 記事中に記載の法令や制度等は取材当時のもので、将来変更されることがあります。詳細につきましては、各専門家にご相談いただきますようお願いいたします。
ホーム  >  法人のお客さま  >  経営者さま向け情報誌(かんぽスコープ)  >  Vol.183 雇用関連法の規制強化にポジティブに向き合おう。