ホーム  >  法人のお客さま  >  経営者さま向け情報誌(かんぽスコープ)  >  Vol.184 採用、定着、貢献に直結。

経営者のみなさまに、次の視野(スコープ)に役立つ情報を毎月お届けしています。

Vol.184採用、定着、貢献※1に直結。

今、再び脚光を浴びる福利厚生は重宝なツール。

物価高が進む中、定昇・ベアに続く第三の賃上げとして福利厚生が注目を集めています。福利厚生は、要件を満たせば従業員に税金・社会保険料がかかりません。そのため、賃上げ原資に限りのある中小企業では、従業員の生活防衛に直結する手段として特に関心が高まっているようです。こうした状況下、福利厚生の第一人者である西久保浩二先生から、中小企業がこれから取り組むべき福利厚生についてアドバイスをもらいました。

  • 従業員がモチベーション高く仕事を行い会社に貢献するという意味で西久保先生が用いるキーワード。
山梨大学名誉教授の
西久保浩二先生

新卒の就活で重視される福利厚生。

 「確かに、インフレの今は、ありがたさが実感されるのでしょうね。ただし、福利厚生が脚光を浴びているのは、生活費の補助になる面だけではありませんよ」
 西久保氏が指摘するのは、新卒の就活でも福利厚生が重視されている現実だ。マイナビの調査※2によると、学生が大手企業の選考に参加する際に企業を選んだ決め手は「福利厚生が手厚い」が約52%でトップ。西久保氏が行った調査(図「A」参照)でも、若い世代ほど福利厚生を重視して就活を行っていたことが明らかになっている。
「今の若者は、高い給料が欲しい、昇進したいというより、楽しく働きたい、ワーク・ライフ・バランスのとれた働き方をしたいと思っている人が多い。それは、経営者の方々も身近に感じていることでしょう。そうした価値観に応える分かりやすいキーワードとして福利厚生が捉えられているのです」
 もちろん、中小企業でも賃上げできれば、それに越したことはない。しかし、いったん上げた賃金は下げることが難しく、財務状態を悪化させかねない。
「それに、賃金は金額という単一の尺度で測られますから、他社と、特に大企業と比べられてしまいます。その点、福利厚生は自社の独自性を発揮できます。低コストでできることがたくさんありますし、スクラップ・アンド・ビルドも容易なので、中小企業こそ力を入れるべきでしょう」

  • 「マイナビ2025年卒大学生活動実態調査(4月)」より。

福利厚生は、労使の知恵の結晶。

 福利厚生制度は、60種類以上あるといわれる。その領域は、住宅、給食、慶弔、運動・娯楽、休暇、健康・医療、資産形成、生活保障、自己啓発、両立支援など多様で幅広い。これらの中で自社に必要な制度、従業員が求める施策を自由に開発・導入できるのが福利厚生の強みだ。
「とはいえ資金は限られるので、選択と集中が大事になります。例えば子育て支援はどこにも負けないと決めたなら、託児所を自前でつくって運営する。社員のチームワークが命の会社なら、レクリエーションの行事を頻繁に開催する。そして、自由に発想できるのが福利厚生の良さなので、オリジナルの施策を工夫するのもいいですね。中小企業の中には、ユニークな福利厚生を開発している会社がたくさんありますよ」
 西久保氏に教えてもらった〝オモシロ福利厚生〟の例を図の表「B」にまとめたので参考にしてほしい。
 しかし、オリジナルの福利厚生を考案するにしても、どう取り組んでいいか分からないという場合も多いかもしれない。西久保氏は、「社員に聞けばいい」と助言する。
「どんな福利厚生が欲しいか、会社に提案してほしいと問いかけるのです。ただし、漫然と聞いては有効な意見が出てきません。若手社員、女性社員、子育て中の社員、製造現場、営業などと対象を絞って、そのグループでディスカッションします」
 このグループ分けでは、採用・定着を強化したい人材を考慮する。例えば若手グループのニーズなら、新卒のニーズとおおむね一致するからだ。そして、〝オモシロ福利厚生〟を、「例えば、こんなことをやっている会社もあるよ」と会話を盛り上げるネタに用いてもいいだろう。
「要は楽しみながら、皆で創意工夫することです。そもそも社員は組織にコミットすることを喜ぶものですしね。社員の発想や熱意を引き出し、一緒につくっていくのが福利厚生のあるべき姿です」
「福利厚生は、労使の知恵が詰め込まれた結晶」と西久保氏は語る。

採用、定着、貢献に、戦略的な福利厚生を。

 だが、もちろん、福利厚生は会社の資金で行うもの。本質的には投資だから、リターンの追求を忘れてはいけない。
 福利厚生は、労働生産性の維持・向上に直結することが研究で証明されている。「そのポイントは3つ。採用、定着、貢献です」(図「C」参照)と教示する西久保氏は、まずは自社の課題を見極めることを勧める。
 同業・同規模の会社でも人事上の弱点は異なる。ある会社は、順調に採用できてもすぐに辞められてしまう。逆に、長く勤める人は多いが新人をとれない会社もある。採用も定着もできているが、どうも働く意欲に乏しいという会社もあるだろう。どこに問題があるかによって福利厚生の力点が変わってくる。
「興味深い成功事例を紹介しましょう。電気設備工事の会社ですが、高卒の新人が半年で半数以上辞めていました。夏にエアコンの取り付けが多く、酷暑の中での作業に嫌気がさして、秋口に辞表を出すのがパターンでした。定着に悩んだ社長が考えたのが〝5年勤続で500万円〟支給する制度。すると早期退職が激減しました。500万円もらうと、若者は高級車を購入します。5年頑張ればいいクルマに乗れるということで定着を促したのですが、何とこれが採用にも役立ったのです。高級車を買った社員は高校の後輩をドライブに誘って自慢するので、高卒求人へ応募が殺到したのだそうです」
 しかも5年続けば厳しい仕事にも慣れ、長く定着し、スキルも高まって作業効率が上がる。結果、労働生産性が向上し、会社への貢献度もアップする。このように、巧みな施策は複合的な効果を生み出すという。
「この例にも表れていますが、福利厚生はリファラル(社員紹介)採用へ好影響をもたらします。社員満足度が高まることで、口コミによる採用力がアップし、良質な人材を獲得できるようになるのです」
 実は現在、大企業と中小企業で、福利厚生費の格差が縮小してきている※3。コロナ禍を経て、大企業の箱物(独身寮・社宅・保養所など)の廃止が進んだためだ。
「もちろん賃金格差は今も大きいのですが、福利厚生なら中小企業でも十分に太刀打ちできる時代になっています。いや、中小企業は意思決定が早いので、機動的かつ柔軟に制度を構築できて、むしろ有利です。これからは賃金競争ではなく、知恵の競争。そう捉えて、福利厚生を戦略的に活用してください」

  • 厚生労働省「令和3年就労条件総合調査」によると、2021年の従業員1人1カ月当たりの法定外福利費は、
    従業員規模別に1,000人以上の企業5,639円、100〜999人の企業4,557円、30〜99人の企業4,414円。

西久保先生が審査委員長を務める福利厚生表彰・認証制度「ハタラクエール」2023年度表彰式での講演風景。

福利厚生戦略研究所 代表 西久保浩二
〒192-0918 東京都八王子市兵衛1-3-5
TEL:042-637-4559

  • 記事中に記載の法令や制度等は取材当時のもので、将来変更されることがあります。詳細につきましては、各専門家にご相談いただきますようお願いいたします。
ホーム  >  法人のお客さま  >  経営者さま向け情報誌(かんぽスコープ)  >  Vol.184 採用、定着、貢献に直結。