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Vol.186令和7年度、雇用・労働の助成金の目玉はこれだ。

 経営者の関心が高い厚生労働省の助成金。要件を満たし、申請手続きに問題がなければ受給できるのがメリットです。しかし、助成金は80種類近く(コース含む)もあり選択に迷うのも確かです。
 そこで昨年度に引き続き、助成金申請の代行を専門とする社会保険労務士の伊藤泰人先生に、2025(令和7)年度のおすすめ助成金ベスト3を聞きました。

社会保険労務士の
伊藤泰人先生

男性従業員に育児休業を取得してもらう。

 伊藤氏は、おすすめ助成金を選ぶポイントに「要件が難し過ぎず、申請もあまり面倒でなく、それに比べて受給金額が大きいこと」をあげる。さらに今年度については、「主要な要件を比較的容易にクリアできる可能性が高い助成金を3つ紹介しましょう」と提案してくれた。
 その1つ目は「両立支援等助成金」の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」。(表「A」参照)このコースの〝第2種〟に着目する。
 男性労働者の育児休業取得率が、前事業年度に、前々事業年度から30%以上上昇し、かつ50%を達成することなどが主な要件となる。
「この要件は、社員数が少ない会社ほど達成が容易ですよ。例えば、前々年度に育休をとった男性社員がゼロで、前年度に男性社員が1人1日でも育休をとれば、育休取得率が100%となり、上昇率・達成率ともに要件を満たし、60万円受給できます」(1回限り)
 実は昨年度まで、〝第2種〟の申請には〝第1種〟の受給が前提とされていた。この要件が今年度は撤廃され、〝第2種〟単独で申請可能になったことも大きいという。
「〝第1種〟は、男性社員が子の出生後8週間以内に連続5日以上の育休をとることが主な要件です。その要件に該当する社員がいるケースは少ないので、〝第2種〟だけで申請できるようになったのは助かりますね。ただし、年次有給休暇や育児目的休暇で休んだ場合は該当せず、法定の育児休業をとらなければなりません。また、対象となるのは前事業年度の実績なので、決算期が変わってから育休をとると、申請できるのはさらに翌期になります。可能であれば、期が変わる前に育休をとってもらいましょう」
 また、「両立支援等助成金」では「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」も検討したいという。
 このコースは、昨年度までは不妊治療だけが対象だったが、今年度から月経と更年期も対象になった。時差出勤やフレックスタイム、短時間勤務、在宅勤務などの支援制度を1つ以上導入し、労働者が1年に5日(回)利用したら、不妊治療・月経・更年期でそれぞれ30万円受給できる(各1回限り)。
「ただし、デリケートなことなので、制度を導入しても実際に利用者が現れるかどうかは未知数ですが、こうした女性の健康課題に配慮している会社であることを対外的にアピールする機会になります。女性のパートタイマーを多く雇用する会社では、求人の武器になりますよ」

事業場内最低賃金を引き上げる。

 2つ目に紹介するのは「業務改善助成金」。(表「B」参照)
 事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を時給で30円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合、その投資にかかった費用の一部が助成される。助成率は4/5または3/4。引き上げる賃金額・労働者数※1に応じて助成の上限額が決められており、最大は600万円。事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差が50円以内の場合に対象になる。
「地域別最低賃金は、例年おおむね10月初旬に改定されます。今年も大幅な上昇が予想され、それに合わせて事業場内最低賃金の引き上げを迫られる企業も多いでしょう。いずれ引き上げるのなら、改定の発効前に引き上げて助成金の受給をねらってはいかがでしょうか※2。ただし、助成金は設備投資の一部を補填するものなので、購入したい設備があることが前提です」
 生産性向上に資する設備とは、例えば手作業を代替する、一度に処理できる量が増えるなど効率化に役立つもの。厚生労働省が業種ごとの事例※3を公表している。
「悩ましいのは、9月に応募が殺到するため、審査作業が滞って、交付決定が遅れがちなことです。すぐに欲しい設備や、納品に時間がかかる設備は購入が難しくなる可能性があるので注意してください」

  • 雇用保険に加入していない所定労働時間週20時間未満の人も対象だが、雇い入れ後6カ月を経過していることが必要。
  • 申請期間の第2期である“2025年6月14日〜地域別最低賃金改定日の前日”の募集が該当する。第3期以降の募集は未定。
  • 「業務改善助成金の活用例」の検索で表示される厚生労働省のページ(PDF)を参照。ただし、当資料は過年度のものであり、助成率などは古い情報となる。

有期契約の従業員を無期雇用に転換する。

 そして3つ目は「65歳超雇用推進助成金」の「高年齢者無期雇用転換コース」。(表「C」参照)
 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用に転換した場合に、1人当たり30万円、1事業所10人まで受給できる。
「この助成金は、正社員化までは求めていません。雇用契約を有期から無期に変更するだけで受給できます。賃金を上げることも、賞与や退職金を支払うことも条件ではありませんから、取り組みやすいですね」
 人手不足の中、高年齢のパートタイマーに頼る企業も多いだろう。無期契約に転換することで、その人たちのモチベーションが高まることが期待できる。また、契約社員の5年ルール※4により無期転換が予想される労働者を、早めに転換することでも助成金が受給できる。そして、無期転換後は定年まで雇用し、仮に60歳定年の会社なら、定年後は希望者全員の65歳までの継続雇用に移行することで対応できる。
「とても使い勝手の良い助成金ですが、気をつけたいのは無期転換の6カ月前から3カ月前までに所定の計画書を提出しなければならない点です。この計画書の作成は難しいので、執行機関の(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部に事前に相談するようにしましょう」

  • 有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換される制度。

 伊藤氏は、厚生労働省の助成金が魅力的な理由のひとつに、利益を単純に押し上げてくれる点をあげる。
「例えば50万円の助成金を受給するとして、同じ金額だけ利益を増やすには、経常利益率5%の会社なら1,000万円の売り上げ増が必要になります。こう考えると、助成金は、財務健全化を図るための手段ともいえますね」


伊藤氏による「特撰助成金」の案内。本誌に掲載以外の助成金も紹介している。
(販売:Amazon)

伊藤泰人 社会保険労務士法人アンブレラ 代表社員
〒190-0012 東京都立川市曙町2-34-13-6F
TEL:042-595-6103

  • 記事中に記載の法令や制度等は取材当時のもので、将来変更されることがあります。詳細につきましては、各専門家にご相談いただきますようお願いいたします。
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