ホーム  >  法人のお客さま  >  経営者さま向け情報誌(かんぽスコープ)  >  Vol.187 休める企業風土を築く。

経営者のみなさまに、次の視野(スコープ)に役立つ情報を毎月お届けしています。

Vol.187休める企業風土を築く。

介護支援は、採用・育成・定着の好循環をもたらす。

 高齢化社会が進展する中、家族の介護をしながら働く人が増えています※1。家族の介護は、ベテラン層や経営幹部層に発生しがちで、万一離職ともなれば企業にとって大きな打撃。介護離職を防止する取り組みが求められています。その先進企業として、厚生労働省や東京都産業労働局も注目する株式会社白川プロの白川亜弥社長に、仕事と介護の両立支援のあり方をお聞きしました。

  • 総務省「就業構造基本調査」より、2012年291.0万人、2017年346.3万人、2022年364.6万人。
「せっかく会社があるのだから頼ってほしい」と白川氏

介護離職の危機感から取り組みを開始。

 「取り組みを始めて10年。少しずつ浸透してきて、今では家族に介護が生じたら、真っ先に会社に相談するのが当たり前になっています」と白川氏は語る。
 白川プロは、主にNHKからの業務委託を受け、映像編集と音響デザインを行っている。創業者が2014年に逝去したのを受け、従業員が経営陣となり、いわば集団指導体制で再スタートした。このとき白川氏も取締役として経営に参画した。
「新経営陣は、全員現場のたたき上げです。せっかく現場出身の人が経営者になったのだから、働く人にとって良い会社にしたいと、就業規則の見直しから始めて、労務制度の刷新に取り組みました」
 白川氏は、新米経営者として勉強を重ねる中で、介護離職のリスクを特集した雑誌記事に接した。同社の当時の平均年齢は35歳。一瞬、「ウチは関係ない」とも思ったが、「いや、何年かたつと40代の社員が中心になって、親の介護が発生する」と考え直し、介護支援の充実を取締役会で提案した。
「雑誌記事にもありましたが、介護に直面した社員は、ひとりで抱え込んで、誰にも相談しないで急に辞めてしまいます。映像と音響のプロとしてせっかく育った社員を失うのは、大きな損失ですからね」

会社の本気を伝え、親身に相談に応じる。

映像の編集風景。

 最初の取り組みは、15年の秋。当時の社長名で「仕事と介護の両立支援宣言」を発表し、併せて従業員アンケートを実施した。
「驚いたのは、『5年以内に介護が発生する可能性があるか』との質問に『はい』の回答が5割以上寄せられたのです。すでに介護中の社員も数名いました」
 リスクの存在を実感した白川氏は、介護支援制度を整えていった。全従業員を対象に介護セミナーを開催。会社独自の介護ガイドブックを作成し、40歳になった従業員に配布した。介護休暇制度を法定の2倍とした上で有給※2とし、加えて年次有給休暇の未消化分を消滅時効なしで40日積み立てられる制度※3も導入した。また、介護が必要になった従業員がまず駆け込むことのできる相談窓口を人事部に設置した。
「当初は、冷ややかに受け取る社員もかなりいました。『会社がヘンなことを始めた』って。当社は職人の集団です。しかも、NHKの局に直行・直帰の人が多く、会社への帰属意識はあまり強くありません。だから〝宣言〟をして、アンケートを行い、社員に寄り添う会社の意思、本気を伝えたかったのです」
 さらに、相談窓口を担う風張有紀恵氏の存在も大きい。風張氏自身、親の介護経験があり、人事労務の知識も豊富だったが、「自己流ではいけない」と独学でキャリアコンサルタントの資格を取得した。
「実は、介護に関する国の制度や地域の支援体制はよく整っていて、日常的なケアはかなりカバーしてくれます。そこに休業や休暇、時短勤務など柔軟な働き方を上手に組み合わせれば、仕事と介護は必ず両立できます。でも、そのことを知らない人が多いので、風張さんが個別の事情を聞いて案内してくれています」
 こうした支援が功を奏し、介護離職はゼロ。これまでの介護休暇利用者は16名で、全従業員約280名の6%近くにのぼる。制度を利用する仲間が周りに増えるにつれ、介護で相談したり、休んだりするのは普通のことという空気が自然に醸成されてきたのだという。

  • 法定の年5日(要介護1人目)を10日とし、無給でもかまわないところ有給(基本給の8割相当額+各種手当)としている。
  • 介護はもちろん、育児や私傷病治療などの際の休暇にも利用できる。

採用・育成・定着の好循環が生まれる。

画像を拡大する

 白川プロでは、介護を申し出た従業員はシフト勤務のある部署に一時的に異動させる。この部署では余裕をもって人員を確保しており、また個人に依存する業務をなくし、皆が互いの業務をカバーしやすくしているためだ。しかし、余裕をもたせた人員配置は人件費の増大に結びつく。
「確かに、財務的には厳しくなります。でも、当社は新卒採用が順調で、退職者もほとんど出ませんから、人材確保にお金がかからないのです。これは、介護支援をはじめ、ワーク・ライフ・バランスに力を入れてきたおかげだといえますね」
 同社は子育て支援も充実させ、育児短時間勤務や子の看護等休暇は法定を大幅に上回る措置を導入。出産・育児に利用できる有給特別休暇も設けている。また、従業員本人の私傷病治療や生理の際に使える有給特別休暇などもある。
「東京都の『東京ライフ・ワーク・バランス認定企業』に選ばれていることもあって、大学や専門学校に名前が知られていますから、学校からの紹介だけで新卒採用がまかなえるのです」
 さらに、従業員は充実した福利厚生制度に感謝し、会社に恩返しをしたいとの気持ちをもつのだろう、離職率は低く、新卒で入社した人材が長く定着する社風が生まれている。だからこそ、育った人材を失わないようにワーク・ライフ・バランスを一層充実させる。採用・育成・定着の好循環が生まれているのだ。
 なお、同社は、介護支援制度を導入した15年に「東京都中小企業ワークライフバランス推進助成金」を受給した。しかし、厚生労働省の「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」は受給していない。同コースが創設されたのは16年なので、タイミングがずれたのだろうか。
「そうですね、ちょっと不勉強でした。コースの中の『介護休業』が受給できるので、これからは申請します。当社のように〝先進企業〟と呼んでもらっている会社ほど、助成金を積極的に活用しないといけませんね」


従業員全員に配布している介護ガイドブック。
従業員の介護相談に応じる風張人事副部長。

株式会社白川プロ
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町10-2-5F
TEL:03-3476-2341

  • 記事中に記載の法令や制度等は取材当時のもので、将来変更されることがあります。詳細につきましては、各専門家にご相談いただきますようお願いいたします。
ホーム  >  法人のお客さま  >  経営者さま向け情報誌(かんぽスコープ)  >  Vol.187 休める企業風土を築く。