下請法は、発注企業(親事業者※3)が下請け事業者に不当な取引を強いることを防ぐ法律。その改正法が来年(2026年)1月1日に施行される。(規制項目は表「A」参照)
下請法の改正のねらいを篠原氏に聞くと、「価格転嫁の促進」と回答。近年の物価上昇によるコスト増を下請け事業者が適正に転嫁できなければ中小企業の賃金が上がらない、との問題意識が政府にあるという。
「公正取引委員会(以下、公取委)は、22年から『運用基準』の変更などを通じて下請法の適用を強化してきました。法律の改正は、その総仕上げといえるでしょう」
下請法には、もともと「買いたたきの禁止」規定がある。これに「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」が改正で加わった。
「”買いたたき„とは、類似品等の価格または市価に比べて著しく低い代金を強制することでした。しかしこの定義では、上昇する労務費や原材料費などの転嫁を申し出ても、『他社も同じ金額でやっている』と拒絶されたら対抗できません。そこで、下請け事業者が求める価格協議に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わずに一方的に代金を決めたりする行為を禁止したのです」
この価格協議は、契約時に金額を合意したあとでも、状況の変化に応じて随時実施することができる。
「下請け事業者にとっては頼もしい規定なので、積極的に活用したいですね。逆に親事業者としては、価格協議に応じないと公取委などの検査が入り、最悪、勧告を受けて企業名が公表されてしまいます。下請け事業者からの求めには誠実に応じること、また協議の際は、検査に備えて記録を残すことをおすすめします」
また、改正下請法では手形取引が一切禁止になる。電子手形も認められず、電子記録債権やファクタリングも最長60日の支払期日までに現金化できないものは違法となる。
さらに改正下請法では、規制が適用になる取引関係も拡大される。
まず、荷主が運送業者に委託する取引が規制対象に追加。そして、幅広く影響が及ぶのが、親事業者・下請け事業者の基準の追加だ。現行は資本金による基準だけだが、これに従業員基準が加わる。(表「B」参照)
現在の基準だと、親事業者・下請け事業者がともに資本金1,000万円以下の場合、適用対象外だ。それが改正法では、従業員基準により、例えば製造委託の場合、親事業者が従業員300人超、下請け事業者が従業員300人以下なら資本金に関わりなく適用対象になる。
「難しいのは、資本金なら登記簿で把握できますが、従業員数は外からは分からないことがある点です。製造委託の場合、従業員300人超の企業は、下請け事業者の従業員規模に注意しましょう。逆に下請け事業者は、親事業者の従業員数を確認しておきましょう」