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Vol.188始めよう、改正下請法・フリーランス新法への対策。

 昨年以来、企業活動を規制する法令の改正・創設が相次いでいます。その中で、中小企業経営に特に影響が大きいと思われるのが下請法※1の改正とフリーランス新法※2の創設です。この2つの法律は共通部分が多く、一貫した理解が重要になります。弁護士の篠原一廣先生から、経営者に知っておいてもらいたいポイントと、実務上の注意点についてアドバイスをもらいました。

  • 正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」。改正により「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変わる。
  • 正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。
篠原・森法律事務所の篠原氏

改正下請法は、価格転嫁を後押しする。

 下請法は、発注企業(親事業者※3)が下請け事業者に不当な取引を強いることを防ぐ法律。その改正法が来年(2026年)1月1日に施行される。(規制項目は表「A」参照)
 下請法の改正のねらいを篠原氏に聞くと、「価格転嫁の促進」と回答。近年の物価上昇によるコスト増を下請け事業者が適正に転嫁できなければ中小企業の賃金が上がらない、との問題意識が政府にあるという。
「公正取引委員会(以下、公取委)は、22年から『運用基準』の変更などを通じて下請法の適用を強化してきました。法律の改正は、その総仕上げといえるでしょう」
 下請法には、もともと「買いたたきの禁止」規定がある。これに「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」が改正で加わった。
「”買いたたき„とは、類似品等の価格または市価に比べて著しく低い代金を強制することでした。しかしこの定義では、上昇する労務費や原材料費などの転嫁を申し出ても、『他社も同じ金額でやっている』と拒絶されたら対抗できません。そこで、下請け事業者が求める価格協議に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わずに一方的に代金を決めたりする行為を禁止したのです」
 この価格協議は、契約時に金額を合意したあとでも、状況の変化に応じて随時実施することができる。
「下請け事業者にとっては頼もしい規定なので、積極的に活用したいですね。逆に親事業者としては、価格協議に応じないと公取委などの検査が入り、最悪、勧告を受けて企業名が公表されてしまいます。下請け事業者からの求めには誠実に応じること、また協議の際は、検査に備えて記録を残すことをおすすめします」
 また、改正下請法では手形取引が一切禁止になる。電子手形も認められず、電子記録債権やファクタリングも最長60日の支払期日までに現金化できないものは違法となる。
 さらに改正下請法では、規制が適用になる取引関係も拡大される。
 まず、荷主が運送業者に委託する取引が規制対象に追加。そして、幅広く影響が及ぶのが、親事業者・下請け事業者の基準の追加だ。現行は資本金による基準だけだが、これに従業員基準が加わる。(表「B」参照)
 現在の基準だと、親事業者・下請け事業者がともに資本金1,000万円以下の場合、適用対象外だ。それが改正法では、従業員基準により、例えば製造委託の場合、親事業者が従業員300人超、下請け事業者が従業員300人以下なら資本金に関わりなく適用対象になる。
「難しいのは、資本金なら登記簿で把握できますが、従業員数は外からは分からないことがある点です。製造委託の場合、従業員300人超の企業は、下請け事業者の従業員規模に注意しましょう。逆に下請け事業者は、親事業者の従業員数を確認しておきましょう」

  • 改正法では、親事業者は「委託事業者」に、下請け事業者は「中小受託事業者」に名称が変わる。

フリーランス新法は、広範囲の外注が対象に。

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 次は、フリーランス新法の解説に移ろう。この法律は、企業と業務委託取引※4をする際に弱い立場に立たされるフリーランス※5を保護する目的で創設された。すでに24年11月1日に施行されている。
 まず気をつけたいのが、この法律のフリーランスの定義。個人・法人を問わず従業員を使用していなければ対象になる※6。従業員とは、週所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる労働者をさし、同居の親族は含まれない。※7
「業務委託の相手が従業員を雇っていても、退職したり、あるいは同居の親族だったり、この法律でいうフリーランスに該当するか否かの見極めは容易ではありません。零細事業者が相手なら、全てフリーランスと捉えて対処したほうが安全です」
 フリーランス新法は、下請法と規制内容が重なる。そのため、すでに下請法の親事業者としての経験がある企業は比較的スムーズに対応できると思われるが、それ以外の会社は新法の内容を学ぶことから始めなければならない。
「下請法のような資本金・従業員規模による適用除外がなく、従業員を使用している事業者は全て発注事業者※8として規制を受けます。また、業務委託の内容に制限がなく、極めて広い範囲の外注が対象になります。フリーランスに業務を委託している会社の経営者は、規制内容をぜひ把握してください」
 具体的な規制内容は表「C」を参照してほしいが、まず厳守したいのが❶の「書面等による取引条件の明示」と篠原氏は指摘する。
「これまで取引条件を口頭で伝えていたことが多いかもしれませんが、書面にしないと違法になります。書面はメールでもよいので、必ず”文書„にして残すようにしましょう」
 そして❷は報酬支払いについて、❸は発注者の強い立場を乱用することの規制。これらのルールを従業員に徹底し、企業文化として浸透させていきたい。❶❷❸は下請法の規制と共通している。
 さて、問題は❹〜❼だ。フリーランスが”個人„であることから、労働者保護と類似の規制が設けられた。
「これらの規制は、自社の従業員に対して果たさなければならない法的義務と同様です。しかし、中小企業の中には十分にできていない会社もあると思います。まずは自社内で法令順守を図ることから始めてはいかがでしょうか」
 なお、フリーランス新法でも、下請法と同様、法令違反の疑いがあると公取委などが検査に入る。
「違反に対する処分は下請法よりも厳しく定められていますので、注意してください」

  • BtoBの取引が対象。消費者からの委託や、自作を一般に販売する場合は対象外。なお、契約名称が業務委託であっても、働き方の実態として労働者の場合はこの法律は適用されず、労働基準法などの労働関係法令が適用される。
  • 法律上の名称は「特定受託事業者」。
  • 法人の場合、代表者以外に役員がいればフリーランスに該当しない。
  • 派遣労働者は従業員に含まれる場合がある。
  • 法律上の名称は「特定業務委託事業者」。なお、従業員を使用していない発注事業者は一部の規制のみを受け、名称も「業務委託事業者」となる。

篠原・森法律事務所
〒101-0053 東京都千代田区神田美土代町9-7 10F
TEL:03-5282-3367

  • 記事中に記載の法令や制度等は取材当時のもので、将来変更されることがあります。詳細につきましては、各専門家にご相談いただきますようお願いいたします。
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