すこやか健康ラボ

脂質とは?中性脂肪・コレステロールが高くなるとどんなリスクがある?

健診値を医師がわかりやすく解説!

健康診断結果を活用していますか?受けて終わりにしていませんか?

結果に安心した方にもドキッとした方にも知ってほしい健診値の見方について、わかりやすく解説します。

また、性・年代別に基準値範囲を超えてしまう人がどのくらいいるのか、基準値範囲を超えてしまうとどのようなリスクがあるのか、この機会に是非チェックしてみましょう。

脂質とは?

写真イメージ

体内には、主に中性脂肪とコレステロールという脂質があります。

中性脂肪とは

中性脂肪は、糖質エネルギーの不足を補い、身体を動かすエネルギー源となります。
また、皮下脂肪になって体温を保持する働きや、内臓を衝撃から守る働きもあります。

中性脂肪のこの役割自体には、悪役となる要素はみられません。
しかし、異常な中性脂肪値が悪役となり、私たちの健康をおびやかすこともありえます。

中性脂肪の基準値は、空腹時30~149mg/dlとされています。
中性脂肪値が150mg/dl以上の場合、さまざまな病気が疑われるようになります。
日本動脈硬化学会による脂質異常症の診断基準のひとつにも、150mg/dl以上という中性脂肪値が挙げられています。

中性脂肪の年代別リスク分布(B~D判定(軽度異常以上)の割合)

男性 棒グラフ
女性 棒グラフ
  • 出典:株式会社JMDCが保有する健診データを基に、各年代別の中性脂肪の「B~D判定:軽度異常以上」の割合を集計

コレステロールとは

コレステロールは、細胞膜やホルモン、栄養素の消化吸収を助ける胆汁酸の原料になるなど体内で重要な役割を担っています。
2~3割が食品から取り入れられますが、ほとんどは糖や脂肪を材料に体内で合成されています。

血液検査では、主に善玉とよばれるHDLコレステロールと、悪玉とよばれるLDLコレステロールの濃度を確認します。

HDLコレステロール

血液中の余分なコレステロールを回収する働きがあるため、不足してしまうと動脈硬化を引き起こす原因となります。
主に運動不足や喫煙が原因で数値が低下しやすいです。
正常範囲は40mg/dl以上であり、40mg/dl未満だと低HDLコレステロール血症と診断されます。

HDLコレステロールの年代別リスク分布(B~D判定(軽度異常以上)の割合)

男性 棒グラフ
女性 棒グラフ
  • 出典:株式会社JMDCが保有する健診データを基に、各年代別のHDLコレステロールの「B~D判定:軽度異常以上」の割合を集計

LDLコレステロール

肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ役割を担っており、増えすぎてしまうと動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険性を高めます。
運動不足はもちろん、食事で飽和脂肪酸(例えば肉の脂身・バターやラード・加工食品など)を取りすぎることにより数値が上昇します。
正常範囲は60~119mg/dlとされており、120~139mg/dlで境界域高LDLコレステロール血症、140mg/dl以上で高LDLコレステロール血症と診断されます。

LDLコレステロールの年代別リスク分布(B~D判定(軽度異常以上)の割合)

男性 棒グラフ
女性 棒グラフ
  • 出典:株式会社JMDCが保有する健診データを基に、各年代別のLDLコレステロールの「B~D判定:軽度異常以上」の割合を集計

中性脂肪、コレステロールが高いとどんなリスクがあるの?

高すぎる中性脂肪値は脂質異常症であり、脳卒中、狭心症・心筋梗塞、腎不全、大動脈瘤、脂肪肝、糖尿病、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)などが疑われます。

HDLコレステロールが低いと、脂質異常症、メタボリックシンドローム、高血圧症、肝硬変、腎不全、甲状腺機能亢進症などが疑われます。
また、LDLコレステロールが高くなると疑われる病気として、脂質異常症、メタボリックシンドローム、糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性黄疸などが挙げられます。

脳卒中(脳出血・脳硬塞・くも膜下出血)

脳の細い血管が突然破裂して起こる脳出血、脳の血管が血栓で詰まる脳硬塞、脳の表面をおおう膜のひとつである「くも膜」の下に出血してしまうくも膜下出血では、言語障害や身体の片側麻痺などの後遺症が出る可能性があります。
脳卒中の診療日数や医療費総額の平均は、次の表のとおりです。

脳卒中の平均診療日数・医療費総額

診療日数 医療費総額
入院 26.6日 187.6万円
外来 4.2日 5.3万円

狭心症・心筋梗塞

心臓に栄養をおくる冠動脈に動脈硬化が進み、血の流れが一時的に途絶えることで狭心症の発作を起こすことがあります。
動脈硬化が進んで完全に閉塞したり、血栓が詰まったりして突然血の流れが止まるのが心筋梗塞です。
胸の激痛が15分以上続き、ショック状態に陥ります。心筋梗塞は、最初の発作で3割の人が命を落とすともいわれています。
心筋梗塞の診療日数や医療費総額の平均は、次の表のとおりです。

心筋梗塞の平均診療日数・医療費総額

診療日数 医療費総額
入院 14.2日 179.5万円
外来 4.6日 6.8万円

腎不全

腎臓の働きが低下し、人工透析が必要になることがあります。
人工透析には、週に3回ほど通院が必要で、1回につき4~5時間も時間を費やすことになります。

大動脈瘤

心臓から送られる血液が最初に通る大動脈にこぶができ、突然破裂したり、死に至ることもあります。

脂肪肝

肝臓に脂肪が蓄積して、脂肪肝になります。
放っておくと肝硬変・肝がんへと進行するリスクがあり、定期的な検査が必要です。

糖尿病

高血糖の状態が続いて、合併症を引き起こし、四肢切断や失明に至ったり、腎不全が悪化して人工透析が欠かせなくなったりする危険性があります。
糖尿病の診療日数や医療費総額の平均は、次の表のとおりです。

糖尿病の平均診療日数・医療費総額

診療日数 医療費総額
入院 17.2日 99.2万円
外来 4.7日 5.3万円

また、糖尿病性網膜症※1、糖尿病性腎症※2、糖尿病性神経障害※3といった重大な合併症もあります。
人工透析には、週に3回ほど通院が必要で、1回につき4~5時間も時間を費やすことになります。

  • 糖尿病性網膜症:網膜の細かい血管に炎症がおきて、眼が見えにくくなる状態
  • 糖尿病性腎症:腎臓の細かい血管に炎症がおきて、たんぱく尿や血尿がおきる状態
  • 糖尿病性神経障害:手足の指先の細かい血管に炎症がおきて、しびれなどをおこす状態

甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

中性脂肪値が高いと甲状腺ホルモンの血中濃度が下がり、甲状腺機能低下症になります。
中性脂肪値が低いと、甲状腺の働きが活発になりすぎて、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)になります。進行すると眼球突出や動悸などの症状が現れます。

脂質異常症

血液中にコレステロールや中性脂肪が多すぎる状態で、動脈硬化の主な要因となります。
多くの場合で自覚症状がなく、健診で判明することが多いです。
生活習慣を見直しても改善しない場合、外来で薬物療法も開始することがあります。

脂質異常症のみで入院することはほとんどありませんが、高血圧や糖尿病を合併症として引き起こすと、動脈硬化をより促進して心筋梗塞、脳卒中、腎臓病のリスクが高くなります。

高血圧

高血圧の状態が続くと、進行にしたがって治療費がかさみます。
高血圧の診療日数や医療費総額の平均は、次の表のとおりです。

高血圧の平均診療日数・医療費総額

診療日数 医療費総額
入院 18.5日 119.2万円
外来 5.3日 5.3万円

メタボリックシンドローム

腹囲がひっかかっていて、脂質異常、高血圧、高血糖のうち、2つ以上が当てはまる場合、メタボリックシンドロームと診断される可能性が高くなります。

肝硬変

肝臓の細胞が壊死と再生を繰り返していくと、肝臓が硬く縮んだ状態になります(線維化)。
肝臓に脂肪がたまると脂肪肝になり、肝硬変・肝がんへと進行するリスクがあるため、定期的な検査が必要です。

【参考文献】

  • 診療日数、医療費総額等は株式会社JMDCが保有する診療報酬明細書データを基に算出

【執筆者プロフィール】井林 雄太 (いばやし・ゆうた)

1984年生まれ、2008年大分大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務の傍ら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。

【ホームページ】

福岡ハートネット病院:https://heartnet-hp.jp/

2025.5.19 作成