傷病手当金の支給条件と申請方法| 病気やケガで働けないときのための完全ガイド
- 公開日:
- 2025.12.25
家族の生活費や住宅ローン、子どもの教育費...。働き盛り世代の方々は、何かとお金がかかります。そんな中、もし突然病気やケガで働けなくなってしまったら、どうすればいいのか。収入が途絶えることに不安を感じ、落ち着かない日々を過ごすことになるかもしれません。
そんなとき支えと頼りになるのが「傷病手当金」です。会社員や公務員など健康保険に加入している方であれば、一定の条件を満たすことで、働けない期間の手当を受け取ることができます。
この記事では、「そもそも傷病手当金とは何か?」という基本から、「いくらもらえるの?」「どうやって申請するの?」といった実務的な内容まで解説します。
もしものときに、安心して治療に専念できるように、今のうちに確認しておきましょう。
病気やケガによる収入減に備える「傷病手当金」とは
突然の病気やケガで、長期間仕事を休まざるを得なくなったとき、最も不安になるのが「収入が途切れてしまうこと」ではないでしょうか。
健康保険に加入している方の中には、「医療費は保険でカバーされるから大丈夫」と思っている方も多いようですが、「生活費」までカバーされるわけではありません。働けない期間が長引くほど、家計への影響は大きくなります。
こうしたときに活用できるのが「傷病手当金」です。会社員や公務員など、健康保険に加入している方が、業務外の理由で病気やケガにより仕事を休んだとき、給与の代わりに支給される所得補償の制度です。
専門家からのアドバイス
傷病手当金は勤務先の健康保険に加入している方が対象です。
以下の方は対象外のため、ご注意ください。
- 国民健康保険に加入している方
- 退職後も元の勤務先の健康保険を任意継続している方
- 在職時から傷病手当金を受給している場合は引き続き支給されます。
傷病手当金の目的
傷病手当金の目的は、「安心して治療に専念できる環境を整えること」です。
収入の不安があると、無理をして出勤したり、十分な療養ができなかったりすることもあるでしょう。こうした状況を避けるための制度として、公務員や会社員の方にとって心強い支えとなっています。
傷病手当金は公的医療保険の1つであり、企業独自の福利厚生や民間の医療保険とは異なります。風邪やインフルエンザで短期間だけ休む場合には支給対象にはなりにくく、連続する3日間の待期期間を含めて4日以上働けない日が続いた場合に初めて対象になるなど、いくつかの条件があります。
長期休業の際に支給される公的な保険に「休業補償給付」があり、違いがわからないという方もいるかもしれません。
休業補償給付との違いは、傷病手当金が「業務外の病気やケガで働けないことに対する補償」である点です。通勤中に起きた事故や、業務中に負ったケガなどは「労災保険」の対象となり、休業補償給付が支給されます。
もう1つ覚えておきたいのが、「事業主から給与が支払われていないこと」が支給の前提である点です。会社から一定額の給与が支払われている場合には、その分が差し引かれて支給されるか、対象外となるケースもあります。
支給の条件・金額・支給開始日・期間を解説
傷病手当金を受け取るには、いくつかの条件を満たす必要があります。ここではその条件や支給額、支給開始日、支給期間について解説します。
【条件1】業務外の病気やケガによる療養であること
最も基本となる条件は、「業務外」の理由で病気やケガをした場合に限られる点です。通勤や勤務中の事故は、労災保険の対象となるため、傷病手当金の支給対象とはなりません。
【条件2】仕事に就けない「労務不能」状態であること
医師の診断により、業務に従事できない状態と判断された場合に対象となります。単なる体調不良ではなく、業務遂行が困難であると医師が証明する必要があります。
【条件3】連続して3日間休み(待期期間)、4日目以降も仕事に就けなかったこと
支給を受けるには、最初の3日間を連続して休業していることが条件です。これを「待期期間」といい、この3日間には土日や祝日も含まれます。4日目以降の仕事に就けなかった日から支給対象となります。
【条件4】休業中に給与が支払われていないこと
休業期間中に会社から給与が全額支払われていると、傷病手当金は支給されません。給与が一部支給されている場合は、給与額と傷病手当金の日額を比較し、傷病手当金の方が多ければ、その差額分が支給されます。
支給額の計算方法:給与の約3分の2が目安
傷病手当金の支給額は、「直近12カ月の標準報酬月額の平均」を30(1カ月=30日と換算)で割って日額を算出し、その3分の2が1日あたりの支給金額となります。
「標準報酬月額」とは、健康保険の保険料などの計算で用いられる、実際の月収を端数のない金額に区切った金額です。たとえば、直近1年間の月収が30万円の場合、標準報酬月額の平均は30万円となり、1日あたりの傷病手当金の支給額は約6,667円(30万円÷30日×(2/3))となります。
支給期間:最長1年6カ月まで支給可能
傷病手当金の支給期間は、最長で1年6カ月です。2022年の法改正により、同一の傷病に対して「支給開始日から通算1年6カ月」まで支給されるしくみに変更されました。
これは、支給開始日(待期期間満了後の最初の支給日)を起算日として、実際に傷病手当金が支給された日数を通算して1年6カ月(547日)まで受給できるということです。療養後にいったん復職し、再発して休業した場合、復職した期間は通算期間に含まれないため、残りの支給日数を受け取ることができます。
専門家からのアドバイス
以下の条件を満たしていれば、会社を退職しても継続受給が可能です。
- 退職日の時点で、傷病手当金を受給しているか、受給条件を満たしている
(業務外の病気やケガの療養中であり、働けない状態かつ待期期間の3日間が終わっている。) - 被保険者の資格喪失をする日の前日までに1年以上の被保険者期間がある
- 資格喪失後も同じ病気やケガが理由で働けない
なお、資格喪失後の継続受給中に仕事に就ける状態になった場合、その後、再び仕事に就けない状態に戻ったとしても傷病手当金は支給されません。
傷病手当金の申請方法と注意点
傷病手当金を受けるためには、所定の手続きが必要です。
この章では、申請から支給までのステップと、押さえておきたいポイントを具体的にご紹介します。
申請から支給までのステップ
ステップ1:申請書を入手する
加入している健康保険組合から、所定の「傷病手当金支給申請書」を入手します。多くの場合、Webサイトからダウンロードできます。
ステップ2:必要事項を記入・準備
全国健康保険協会(協会けんぽ)の書式の場合、申請書は主に3つの欄に分かれています。
- 被保険者記入欄(申請者本人が記入)
- 療養担当者欄(医師に、労務不能であることなどを記入してもらう)
- 事業主証明欄(勤務先に休業期間や給与支払い状況などを証明してもらう)
- 申請書は1カ月ごとに提出する必要があります。休業が続く場合は毎月記入・提出します。
ステップ3:健康保険組合へ提出
申請書に記入後、添付書類とともに郵送またはオンラインで提出します。
ステップ4:審査・支給決定
健康保険組合側で審査が行われ、問題がなければ数週間後に支給されます。支給時期は健康保険組合によって異なりますが、目安として申請から2週間~1カ月程度と考えておくとよいでしょう。
申請時に押さえておきたいポイント
傷病手当金の申請時に押さえておきたいポイントを3つご紹介します。
1.医師の診察タイミングに気をつける
傷病手当金の申請には、医師の意見欄の記入が必要です。
ここで重要なのは、医師は申請対象期間内に実際に診察をしていないと意見欄を記入できないという点です。たとえば、4月1日~30日まで休業した場合、その期間内に少なくとも1回は受診が必要です。受診していない期間については、後から医師に記入を依頼することはできません。
申請を検討している場合は、休業期間中に定期的に受診し、申請について医師に早めに相談しておきましょう。
2.給与明細のチェックを忘れずに
傷病手当金は、給与と重複して受け取ることができません。
申請期間中に会社から給与の一部が支払われていた場合、支給額が減額または不支給になることがあります。
会社からの傷病手当金の支給額と申請内容が一致しているか、給与明細書をきちんと確認するようにしましょう。
3.「自分で動く」意識が大切
傷病手当金は、自動で支給されるものではありません。支給を受け取るためには、本人による申請が必要です。会社や医療機関と連携して書類を整える必要もあります。
体調不良の中での手続きは大変ですが、この制度は「生活を守る大きな支え」となります。少しずつ準備を進めて、確実に申請を完了させましょう。
専門家からのアドバイス
傷病手当金の申請は「事前申請」ができません。
医師の診断書に記載される治療日の日付は申請日よりも前である必要があります。また、初診日より前の休業は傷病手当金の対象にならないので気をつけましょう。
また、給与が支払われている場合は傷病手当金の支給対象とはならないため、有給休暇を使って休む場合は受給できません。ただし、有給休暇で受け取る給与の額が傷病手当金よりも少ない場合、差額が支払われます。
よくあるご質問と回答
傷病手当金の受給中にアルバイトや副業はできるの?
傷病手当金は「労務不能」が前提となるため、就労が確認されると原則として支給停止の対象になります。
ただし、軽作業や在宅ワークなど、主治医が認めた範囲での就労が例外的に認められる場合もあります。その場合、報酬が発生すると減額や停止の対象となるので、必ず事前に健康保険組合や勤務先に相談しましょう。
傷病手当金の「最長1年6カ月」のカウント方法が複雑って本当?
はい。2022年の法改正により、傷病手当金は「支給開始日から通算1年6カ月」まで受給できるようになりました。途中で職場復帰して支給が止まった場合、その期間は計算に含まれません。再度休職した場合、残りの支給日数の範囲内で利用できます。
たとえば、最初の休職で6カ月間支給され、復職後に再度1年間休職した場合、残りの1年分を受け取ることができます。支給日数がどのくらい残っているのか確認したい場合は、支給を受けていた健康保険組合(もしくは協会けんぽ)に問い合わせましょう。
まとめ
病気やケガで働けない期間の生活を支える「傷病手当金」について、制度の概要から、支給条件、金額、申請方法までをまとめました。
この制度のポイントは、「自分で申請しなければ受給できない」ということです。また、受給にはいくつかの条件があるので、事前に確認しておくことでスムーズに手続きを進めることができます。
働き盛りの方は仕事や家庭で多忙なことが多く、仮に長期間仕事を休まざるを得ない場合、家計への影響も大きくなります。「傷病手当金」は、働けなくなったときに家族の生活を支えてくれる大変心強い制度ですが、長期の入院や手術などで予想以上に医療費がかかる場合もあります。今回ご紹介した制度を活用することに加え、入院や手術にかかる費用に備えるために、民間の医療保険(医療特約)への加入を検討することで、より安心して普段の生活をおくれるでしょう。
この記事の監修

2級ファイナンシャル・プランニング技能士、マネーライター、証券外務員一種資格保有田尻宏子(たじり ひろこ)
証券会社、生命保険会社、銀行など複数の金融機関での勤務経験後、2016年から主に生命保険、損害保険、株式投資、ローン、相続関連等の金融分野専門のライターとして活動中。お金の初心者から上級者向けに幅広く執筆。
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