遺族年金の仕組みと申請方法を分かりやすく解説| もしものときに家族を守る
- 公開日:
- 2025.12.25
「もし自分に万一のことがあったら、大切な家族の生活はどうなるのだろう」と、ふと不安になることはありませんか。
遺されたご家族の暮らしを支えるのが「遺族年金」です。遺族年金は、配偶者や子どもなど、一定の条件を満たす遺族に年金が支給される国の制度です。
制度のことを知っていても、「誰が、いくら受け取れるの?」「どんな手続きが必要?」といった疑問を持つ方も多いかもしれません。本記事では、遺族年金の仕組みと申請方法について、分かりやすく解説します。
もしものときに家族を守る「遺族年金」とは?
遺族年金とは、亡くなった方のご家族が公的年金を受け取れる制度です。
突然の不幸で生計を担っていた家族を失った後の生活を経済的に支えることを目的としています。国が運営する制度であり、遺族が安定した暮らしを続けるための役割を果たしています。
たとえば、会社員として厚生年金に加入していた方が亡くなった場合、一定の条件を満たせば、その配偶者や子どもが遺族年金を受け取ることができます。
自営業者や主婦など、国民年金に加入していた方が亡くなった場合でも、同様に遺族年金を受け取れる可能性があります。
多くの方に関係する制度であるにもかかわらず、仕組みや手続きを複雑に感じ、「自分には手続きできない」と思ってしまいがちです。
しかし、万一の事態はいつ訪れるかわかりません。いざというときに慌てないためにも、制度の基本を知っておくことが大切です。
専門家からのアドバイス
遺族年金を受け取れるのは、亡くなった方によって生計を維持されていた配偶者や子どもですが、受給の優先順位は「配偶者→子ども」の順と決まっています。
生命保険のように「配偶者ではなく、子どもに受け取らせたい」といった受取人の指定はできません。
この点には注意が必要です。
遺族年金の基本構造「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」
遺族年金には大きく分けて2つの種類があります。国民年金加入者が対象となる「遺族基礎年金」と、厚生年金加入者が対象となる「遺族厚生年金」です。
日本の年金制度は「2階建て構造」と呼ばれ、全国民に共通する1階部分と、会社員や公務員が対象の2階部分に分かれています。遺族年金もこの構造と同様に支給されます。
1階部分:全国民共通の「遺族基礎年金」
遺族基礎年金は、国民年金の被保険者が亡くなった場合に、一定の条件を満たす遺族に支給されます。
支給対象は原則として「子のある配偶者」または「子ども本人」です。たとえば、18歳未満の子どもがいる家庭で、父親が亡くなった場合、母親が受け取ることができます。
ただし、子どものいない配偶者だけでは遺族基礎年金を受け取ることができません。この点が厚生年金との大きな違いであり、誤解されやすいポイントです。
2階部分:会社員・公務員が対象の「遺族厚生年金」
遺族厚生年金は、厚生年金加入者が亡くなった場合、遺族に支給されます。
支給対象は遺族基礎年金よりも広く、一定の条件を満たせば子どもがいない配偶者にも支給されます。
また、亡くなった方によって生計を維持されていた父母、孫、祖父母なども、一定の要件(父母・祖父母は55歳以上、孫は18歳到達年度末まで、または障がいの状態にある20歳未満など)を満たせば、支給対象となります。
厚生年金に加入していて子どものいる方が亡くなった場合は、原則として「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」の両方を受け取ることができます。
このように、どの遺族年金が支給されるかどうかは、故人の加入していた年金制度によって異なります。
専門家からのアドバイス
たとえば、夫婦ともに亡くなった場合、子どもは夫婦どちらか一方の遺族年金を受け取ることになります。「金額が多いほうを選ぶ」など、選択は可能ですが、2人分を受け取ることはできません。
また、「障害年金と遺族年金」など支給事由が異なる2つ以上の年金もいずれか1つを選択しなければなりませんが、特例的に複数受給が認められる場合もあります。
誰がいくらもらえる? 遺族年金の支給条件と年金額
具体的な支給条件や年金額について詳しく確認していきましょう。
遺族年金は、受給対象者や年金額が制度によって異なります。ここでは、遺族基礎年金と遺族厚生年金それぞれの支給条件と金額の目安を紹介します。
【遺族基礎年金】支給条件
遺族基礎年金は、亡くなった方(被保険者)が国民年金に加入中または一定の保険料納付期間を満たしていた場合等に、次のいずれかの遺族に支給されます。
- 子のある配偶者
- 子(18歳到達年度末まで/障がいがある場合は20歳未満)
たとえば、夫婦2人と小さな子どもが1人いる家庭で父親が亡くなった場合、母親が「子のある配偶者」として受給できます。子どもが18歳になると、年金は支給停止されます。
ただし、亡くなった方が保険料未納であった場合、支給されません。年金の納付状況を家族で確認しましょう。
もう1つ「生計維持」と呼ばれる条件があります。これは亡くなった方に「生計を維持されて」いた場合を指します。具体的には、同居か仕送りを受けていた場合で、遺族の前年の収入が850万円未満である場合などが該当します。
【遺族基礎年金】年金額の計算方法と子の加算額
2025年度の遺族基礎年金の基本年金額は、受給者の生年月日によって異なっています。昭和31年4月2日以降に生まれた方は年間83万1,700円、昭和31年4月1日以前に生まれた方は年間82万9,300円です。加えて、対象となる子どもの人数に応じた「加算額」が支給されます。
- 第1子・第2子:各23万9,300円
- 第3子以降:各7万9,800円
たとえば、昭和31年4月2日以降生まれの方で2人の子どもがいる場合は、年間131万300円(83万1,700円+23万9,300円×2)となります。月額では約10万9,000円が支給される計算です。
【遺族厚生年金】支給条件と遺族の優先順位
遺族厚生年金も遺族基礎年金と同様、保険料納付期間を満たしている方が亡くなった場合に支給されます。生計維持条件があることも、遺族基礎年金と同じです。
支給対象は、以下の順で優先されます。
- 子どもがいる配偶者または子ども(18歳到達年度末まで、または障がいの状態にある20歳未満)
- 子どもがいない配偶者(妻または55歳以上の夫)
- 父母(55歳以上)
- 孫(18歳到達年度末まで、または障がいの状態にある20歳未満)
- 祖父母(55歳以上)
支給期間は原則として終身ですが、夫の死亡時に妻が30歳未満で子どもがいない場合は5年間の有期給付となります。
- 本内容は2025年時点での厚生労働省公表情報に基づく予定であり、今後変更される場合があります。
【遺族厚生年金】年金額の計算方法と最低保障
遺族厚生年金の年金額は、亡くなった方が厚生年金保険加入時に受け取っていた給与や加入期間に応じて算出されます。原則として、老齢厚生年金の4分の3が支給されます。
たとえば、亡くなった方の老齢厚生年金の支給見込額が年間100万円の場合、その4分の3にあたる年間75万円が遺族厚生年金の支給額となります。
なお、亡くなった方の厚生年金の加入期間が25年未満だった場合は、25年とみなして計算します。加入期間が短いと厚生年金の支給額は少なくなるため、いわば最低保障のようなものです。
条件を満たせば受けられる「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」
一定の条件を満たす場合、遺族厚生年金では次のような加算がされることがあります。
- 中高齢寡婦加算:夫を亡くした妻のうち、次の条件にあてはまる場合は、妻自身が老齢基礎年金をもらえるようになるまでの間加算される。
- 夫の死亡時に「40歳以上65歳未満で生計を同じくする子がいない妻」
- 末子が18歳到達年度の末日を過ぎるなど「遺族基礎年金を受けられなくなった時点で40歳以上65歳未満の妻」
- 経過的寡婦加算:昭和31年4月1日以前生まれで、65歳から老齢基礎年金を受給する妻に対して、中高齢寡婦加算に代わって支給される調整的な加算。
どちらも要件が細かく定められており、請求の際は確認が必要です。これらの加算により、一定の生活水準が保たれるよう配慮されています。
遺族年金の申請手続きガイドと知っておくべき注意点
遺族年金は、申請しないと支給されません。大切な家族を亡くした後の手続きは心身ともに負担が大きいものですが、できるだけ早く動くようにしましょう。
手続きのタイミングと窓口
遺族年金の請求は、死亡日の翌日から5年以内に行う必要があります。期限をすぎると受給権が消滅するので、注意しましょう。
手続きは以下の窓口で行います。
- 遺族基礎年金のみの場合:お住まいの市区町村役所の年金担当窓口、または年金事務所、街角の年金相談センター
- 遺族厚生年金(遺族基礎年金を含む)の場合:年金事務所または街角の年金相談センター
必要書類と注意点
申請には、以下のような書類が必要です。
- 年金請求書
- 死亡診断書(コピー可)
- 戸籍謄本、住民票、所得証明など
- 亡くなった方の年金手帳または基礎年金番号通知書
- 預金通帳(受取口座)
なお、「子の有無」や「障がいの有無」によって、必要書類が変わることがあります。
特に子どもが障がいの状態にある場合は、医師の診断書や障害者手帳のコピーが求められます。事前に「ねんきんダイヤル(0570-05-1165)」で確認しておくと安心です。
なお、遺族年金の手続きは、民間の生命保険などと並行して進めることが多いため、管理用のファイルやノートをそれぞれ用意しておくことをおすすめします。混乱を防ぐことができます。
専門家からのアドバイス
遺族基礎年金を申請する場合、死亡日が国民年金第3号被保険者期間中であれば、申請先は年金事務所または街角の年金相談センターになります。
また、遺族厚生年金申請書は遺族基礎年金申請書も兼ねています。よって、申請先は年金事務所または街角の年金相談センターのみでかまいません。
よくあるご質問と回答
働いていても遺族年金は受け取れますか?
はい、遺族年金は働いていても受給することができます。働いていること自体が支給停止の理由になることはありません。
ただし、支給には「生計維持」など、いくつかの条件があります。たとえば、ご遺族の年収が850万円以上の場合には支給されない可能性があります。
遺族年金の受給中に再婚すると、年金はどうなりますか?
遺族基礎年金・遺族厚生年金ともに、配偶者が再婚した場合は原則として支給が終了します。
ただし、遺族基礎年金では、受給要件を満たす子どもがいる場合、その子どもに年金が支給されることがあります。詳細はお住いの地区町村役場の年金担当窓口や年金事務所に相談して、再婚前に確認しておくと安心です。
まとめ
遺族年金は、遺されたご家族の生活を守るための大切な制度です。
夫と妻どちらが亡くなるか、また職業等によって受け取れる遺族年金が異なるため、ご遺族の生活費を備える場合は、人によって準備する金額が異なります。
「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の仕組みを理解し、自分やご家族がどの年金を受け取れるのかを知っておくことに加え、遺族年金ではカバーできない生活費の不足分を生命保険などの手段で必要な備えを検討しておくことが、いざというときの安心につながります。
また、手続きには期限があります。支給の条件によって受給額も変わるため、できるだけ早めに確認・準備しておくことが大切です。
将来の不安を少しでも軽くするために、まずは自分の年金加入状況を確認し、ご家族と話し合う機会を持ってみてください。
この記事の監修

2級ファイナンシャル・プランニング技能士、マネーライター、証券外務員一種資格保有田尻宏子(たじり ひろこ)
証券会社、生命保険会社、銀行など複数の金融機関での勤務経験後、2016年から主に生命保険、損害保険、株式投資、ローン、相続関連等の金融分野専門のライターとして活動中。お金の初心者から上級者向けに幅広く執筆。
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